先ず、今日の日本における社会的養護対象児童4万7000人のうち、649人が親族里親(434世帯)の下で暮らしています。一方で乳児院・児童養護施設等で過ごす子どもは4万人程度、職員総数は2万5千人程度のようです。(2012年3月末現在)
庄司(2008)は「今日の欧米、オセアニアの先進諸国における里親制度(フォスターケア)で特記すべきことのひとつとして、親族里親(kinship foster care, kfc)の拡大」をあげています。
韓国ではその大部分(92.6%)が親族里親であるのに対し、わが国においては平成十四年の法改正まで事実上「親族里親は禁止」されていました。
庄司はこの平成十四年の改正を「諸外国の事情及び低迷を続けるわが国の里親制度の発展を期して」ではないかとしています。
林・兼井(2008)による全国の都道府県・政令市にある中央児童相談所を対象とした調査の結果からは、自治体による親族里親制度の運用状況の格差が明らかになっています。
自治体によっては独自の要綱を作成し、親族養育を安易に認定しないように規制しているように見受けられます。この親族里親に関わる傾向は海外においては見受けられない日本独自のものであるようです。
渡邊(2008)はオーストラリアのキンシップケア(親族里親)とその促進に触れ、世界の児童と母性(2010年10月発行 69号)の 中で子どもやユースの不安やストレスを軽減出来る点、事前のトレーニングも殆どなく、委託後の訪問回数も簡素化出来る(dhs, victoria,2003)というメリットと、エーンズワースら(ainswors, 1997; tomison and stanley, 2001)が言う「都合の良い」委託先という見方を紹介しています。
また、大谷は伝統的拡大家族制度の社会であるフィリピンにおける要保護児童の養育に親族里親を民間福祉団体ngoの実践から行政が動く様子を紹介しています。
アメリカでは1980年代後半頃から、虐待やネグレクトを理由に州のフォスターケアに措置された子ども(要保護児童)の委託先として、親族を活用する傾向が強まっており、「州が子どものケアのリソースとして親族を利用することになっている」といいます(原田2010)。 アメリカでは施設による子どものケアを、子どもの福祉の観点からも、また社会のコストの観点からも受け入れていないそうです。原田はアメリカとの比較で日 本では親族を「受け皿」として使わなければならないという切迫感がなく、「つながり」を守るという親族ならではの役割もそれほど重要なオプションとしては 認識されにくく、その中で親族の「リスク」が突出して意識され、児童福祉の現場は親族里親の利用に消極的になっているのではないかと分析しています。
いずれにせよ、わが国における親族里親の運用状況は世界的に見てもかなり「特殊」であるといわざるを得ないと思われます。
粟津(2010) によればアメリカの五十二万人の里子人口のおよそ4分の1が親族に育てられているようです。
最初に触れたように、日本の親族里親は社会的養護対象児童のうち、47000分の649ですから、およそ72分の1です。
これは、日本では実親が養育に関わることに困難な場合、親族が関わるケースが圧倒的に少ないということでしょうか?
おそらく、それは逆であろうと思われます。
アメリカと日本の人口比率から見ても、社会的養護対照児童数が圧倒的に日本が少ないのは、日本の場合は先ず、国が「社会的に養護」するよりも「家族的に養護」することが「当然の義務」だったからではないでしょうか。
日本で親族について判っている数値ががあるとすれば、親族里親登録359世帯/依託児童631人(2012年9月現在)以外には、児童扶養手当を受給者「母子家庭」「父子家庭」ではない「その他の世帯」約3万人(厚生労働省福祉行政報告例 平成24年3月概数)の中に「親族による養育」が含まれていると考えられます。
しかし児童扶養手当には所得制限があり、給与所得者である殆どの親族養育者は、この手当を受けることが出来ないと思われるため、親族による「中途養育者」の母数は判りません。
ここから、社会的擁護の範疇に入れることなく、人知れず、実子でない子を育てている親族の数が決して少なくはないことが、おぼろげに見えてくるのではないでしょうか。
日本の親族里親認定においての問題は何でしょう。
東京都では、児童扶養手当を受け、すでに養育をしている親族を親族里親に切替えない方針をとっているといいます。(林・兼井,2008)
児童扶養手当認定と、里親認定の対象者が重複するから、併給は出来ないということです。年金の併給も同様でしょう。しかし、児童扶養手当におけるこの「所得制限」の意味はどこにあるといえるでしょうか。実質的には生活が困窮する場合に支給(困窮していなくても所得が少ない場合に支給)される手当です。東京都の養育家庭(ほっとファミリー)認定基準には世帯の収入が生活保護基準を上回っていることとありますが、親族里親はその限りではありません。(実際には東京都では殆ど認定がされていません)
里親委託ガイドラインには、本来親族は、民法第730条に「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない」、また民法第877条第1項の「直系血族等の子どもを扶養する義務」が書かれています。しかし「その親族が経済的に生活が困窮するなど結果として施設への入所措置を余儀なくされる場合には、親族里親の制度を活用」となっています。
※これは著者が個人的に関係者から聞いた言葉なので論文中には書いていませんが、言葉通りに解釈すれば、三親等の扶養義務がある者は、生活困窮しない限り、養育支援の対照とはならないという考え方がある、ということでしょうか。
親族里親制度-親戚による子育てについて語り合おう-kinship語り場
日本において親族里親がようやく脚光を浴びるきっかけになったのは2011年3月11日に起きた東日本大震災によって、親を失った子どもの実質的な「受け皿」としてでした。(参考:親族里親 東日本大震災)この「一刻を争う」緊急性は従来の親族里親制度の矛盾点を浮かび上がらせたかもしれません。
三親等の親族が措置された際に一般生活費(月額47,600円)及び教育費が支払われるのに対し、(三親等内の親族を除いた)親族が養育する場合に 一般的な養育里親として(月額72,000円)が支給されることに合理性を認めがたい故、厚生労働省は三親等内の親族ではあるが養育里親への認定を認める 方向で省令改正をする方向であるという(磯谷, 2011)。しかし、これは読みようによっては親族が「親族里親」ではなく「一般里親」に認定されるともとれないでしょうか。だとすれば、両者を違うカテゴリに置く理由はなんでしょう。
そもそも、親族里親と一般里親の格差はなぜ必要なのでしょう。
相変わらず先に述べた「自治体による親族里親制度の運用状況の格差」がなくなった訳ではないため、「付け焼刃」的改正に伴う混乱が増える可能性もあるでしょう。
いずれにせよ今後の行政の動向に注目したいところです。
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