里親という社会的「養育家庭」について

01.過去の文献から中途養育を考える

里親は児童養護施設や乳児院等の施設職員と同様に「社会的養護」という枠組みに入る中途養育者です。しかし、前提としての「家庭」がある、という点において、その養育に関わる意識は大きく異なっていると、著者は思っています。

里親という社会的「養育家庭」において 子どもの養育をゆだねるという慣習は古来より存在していましたが、「里親」という言葉が初めて法律に登場したのは第二次世界大戦後に施行された児童福祉法でした。

1947年の児童福祉法要綱案では、児童福祉施設とは別に「児童をその保護者から引き取り、里親親族等の家庭、寺院教会保護団体その他適当な者に委託されること」と明記されていました。その後法として成立する前に、「保護団体」、「教会」「親族等の家庭、寺院、その他適当なもの」が削除されました。ここで社会的養護下の「中途養育」と、そうでない「中途養育」が分けられたといえるかもしれません。

里親は「公的機関としての監視下」にありながら、「一般家庭としての権利および義務」にも拘束される唯一の存在となりました。里親制度は社会的養護の一施策として位置づけられ、実質的な管轄機関は児童相談所となっています。

現在、里親には「養育里親」「専門里親」「養子縁組によって養親となることを希望する里親(以下養子縁組里親)」「親族里親」があります。平成21年度よりファミリーホーム(家庭において職業として運営出来る形態)が新設されました。

東京都のみ、「養育里親」を「養育家庭」という名称で制度化しています。

その養育に関し特に支援を認めた児童を預かる目的の「専門里親」以外はそれぞれの形態において、養育児童に違いはないはずです。しかし、それぞれの「養育者側の立ち位置」により処遇は異なります。

「養子縁組里親」、「親族里親」に関しては研修の義務及び里親手当の支給はありません。親族里親に関しては東日本大震災による大量の孤児の扱いの上 で制度としてクローズアップされましたが、その取り扱いは未だに都道府県によって大きく異なっていて、東京都のように認定に関して大変消極的な地域もあり ます(毎日新聞2011.11.8)。

また、「恒久的で安定した生活環境」という面において「養子縁組里親」が最も子どもの成長に寄与すると思われますが、実質的にこの制度はあまり機能 していないようです。一説では、現代の要保護児童には、養育することが出来ない「実親」がいて、親権の法的問題をクリアすることが難しいためであるといわ れていますが、養子縁組を社会的養護に組み入れる提言「日本におけるパーマネンシー実現に向けて?社会的養護に養子縁組を位置付ける制度設計?」 中央大学法学部家族関係法 鈴木ゼミ(2012)に よれば、「養子縁組里親は養育里親と異なり、里親手当を受けられず、里親になるにあたって研修義務も課されていない」点、「養育里親の方が非常に有利な制 度では、養子縁組を希望していても支援等の問題で養子縁組里親ではなく養育里親へと流れていく、あるいは長期にわたり養育里親であり続けるということが考 えられる」点、「現行の養子縁組制度自体が、社会的養護の一手段として広く活用されるには不十分」という問題点を挙げています。昨今では法改正も含む民間 の養子縁組あっせんに関する動きが活発になってきている側面もあります。民間養子縁組あっせんの現状について

「専門里親」は専門研修も義務付けられ、より手当も多いですが、虐待を受けた児童の増加と照らし合わせても専門里親制度が実質的に機能しているようには見えません。多くの虐待を受けた児童が専門研修を義務付けられないままに養育されている現状があるのではないでしょうか。

著者が里親の会に参加させていただいた際にも、研修に関する不満「一般論ではなく家庭現場で生かせる養育技能の研修を」等を聞きました。しかし、中途養育に関する(公的な)教育研修を受けることが出来るのは、家庭形態の中途養育者は、現状では里親だけであることも事実であろうと思われます。

和泉(2006)は「里親とは何か-家族する時代の社会学」の中で、「里親制度」と「養子縁組」を「家族」と関連する「公」と「私」の関係と捉えています。また、里親という制度には「相反するふたつの認識-里親を公的機関として『監視下』に置くということと、『里親』はあくまで『一般家庭』であるため、報告を義務づけることは出来ないということ-が同時に存在する」といいます。これに関る重要な出来事は1973年の東京都の養育家庭制度の創設による「養子縁組を目的とせず、子どもたちの養育そのものを目的にした、新たな里親制度の創設を訴えるもの」(塚原, 2001)でした。和泉はこれを「里親になる動機の選別の機能を果たしているようにみえる」と指摘しています。

里親は家族なのか、家庭なのか、あるいは職業的家庭(ホーム)なのか。これらの定義は現行制度上、曖昧であるために、認定を受けた里親自身は子どもをわが子として愛するのか、あるいは施設職員のように養育のプロとして「働く」ことを望まれているのか、その狭間に本来の養育とは別個の困難があるのではないでしょうか。

中嶋の研究論文(2011)によれば、一般の人々が「血縁」を重視していること、「親族里親」になってもいいと考えている人が多いという調査結果が出ています。

これは日本に親族里親が少ない現実と比較しても、非常に興味深い結果といえるのではないでしょうか。

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