Aさんが2人の子どもの養育を義母と交替するきっかけは、太郎くんの問題行動でした。
以下、フィクションの情景描写(事例)としてお読みください。
太郎君は公園で(たぶん置き忘れてあった)ゲーム機を、拾いました。同級生の〇〇くんが持っていたことを知っていたので、ゲームの持ち主が誰かは想像したと思います。しかし、太郎君はそのゲーム機を持って自分の家に帰りました。途中、太郎君は気づいてなかったかもしれませんが、ゲーム機を持って歩いているところを他の同級生に見られていました。太郎君はそのゲーム機を使って遊ぶことはしないで、家の裏手にある物置に入れました。
何も知らずに太郎君の小学校の保護者会に出席した義母は、事前に結託して出席していた保護者より「ゲーム泥棒の保護者」として、一斉に非難を受けました。
そのショックで心臓発作を起こしてしまった義母は、太郎君の面倒を見ることが難しくなりました。
太郎君が小学校2年生の頃のことです。
太郎君がなぜ、そのような行動をしたのかは判りませんが、おそらくはゲーム機が欲しかったことと、他人のゲーム機を勝手に使うことの後ろめたさの葛藤の中での選択だったのだろうと思います。
物置に隠さず、遊んでいたら義母が見つけて、友達の家に返しにいけたかもしれません。通りがかった友達に見られていなかったら、知らない間に保護者が結託する事態はなかったかもしれません。一つ一つは他愛もないことなのですが、結果的に、それが自らの移住地を変えるきっかけとなったのです。
しかし、実際に太郎君の盗難は習性化していたのでしょうか。仮にそうだったとしても、最初の段階で保護者が気づき、何かしらの対処をしておけば再発を防げたかもしれませんが、買ってあげた覚えのないゲームソフトのレシートを子ども部屋で発見するに至っても、義母はそれが太郎くんが義母の財布からお金を抜いて 使ったりしていたのかどうかを見極めきれなかったといいます。
義母は太郎君を躾けられなかったと自分を責めましたが、Aさんは「義母を責めることは出来ない」といいました。何故なら「義母は養育を肩代りしていたが、実質的に『祖母であったから』とAさんはいいました。」
「通常、祖母の役割は孫を甘やかすことです。しかし太郎の不幸なところは、実親が躾をする係り上にいなかったことかもしれません。」
Aさんの家に来た当初、太郎君くんは毛布に包まって生活していたそうです。人前では落ち着きがなく、他者と目を合わせることが出来ないような子どもであったから、太郎くんが義母の財布よりお金を抜いて、一人で買い物にいけるほどの社会スキルがある点にAさんは違和感を感じたそうです。
「正直、私には理解出来ませんでした。チックは出ていましたし、私は太郎にはなんらかの障害があるのではないかと考えましたが、妻や義母からすれば、そのような方向で太郎の症状を考えることは難しかったようです」
実際に太郎君は花子さんと違って「義弟に似ている部分)が多く存在していたようです。
Aさんは太郎くんと花子さんを引き取ってから、それぞれ別々に公的な教育研究機関に通わせ、カウンセリングなどを通じ1年余り様子を見ている中、太郎くんに関しては「ずいぶんと落ち着いた」という評価を得ることが出来ました。
太郎くんは運動は苦手で、動作もぎこちない部分がありました。Aさんは広汎性発達障害を考え、花子さんと一緒に発達クリニックにて検査を依頼しました。
そして、太郎くんのIQは定型の範疇であり、「今の状態で判定は出来ない」と医師に言われたそうです。
「医師はむしろ養育に問題があると言いました。そこで妻も私も(発達外来の)医師に対して不信感を持ちました。」
「養育に問題があるなら、療育の必要はないのでしょうか。いずれにしても、薬も出なければ治療もなく、何もないなら医療機関には行っても無駄ではないか」Aさんはそう考えるようになったといいます。
勿論、Aさん夫妻は、太郎くんの特性を無視した訳ではありませんでした。
しかし「支援が何もなければ、一般の子どもと同等に扱い、一般の子と同等のスキルを身につけていく以外にはない」と考えたといいます。
太郎くんは自分なりの生き辛さを抱えながらも「定型発達者」として生活するというのがAさんの考えでした。しかし、Aさんは「何の支援も得られないし、誰も助けてはくれない」のであれば「何もしない」という訳ではなく、太郎くんの特徴を理解した上で「それに見合った定型の社会的スキルを身につけさせなくてはならない」と考えたといいます。
しかし、Aさんによれば「そのために、自らの社会的スキルを総点検しなくてはならなくて、それは思いのほか大変な作業を伴いました。」といいました。
Aさんは当初、太郎君だけ引き取るつもりだったようですが、姉弟が分離するのは可哀想だという妻の意見から、花子さんと太郎君の両方とも引き取ることにしたそうです。
太郎君の姉である花子さんは、定型発達ともしょうがいとも捉えられない、いわゆる「グレーゾーン」という評価を受けました。
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