Aさんは児童扶養手当等を受給するようになって、その後に「親族里親」という制度の存在をインターネットで知ったそうです。
きっかけは、知り合いの継母さんが、「誰か里親になってくれないだろか」と書いているのを読み、自分の立ち位置がステップファミリーというよりは、里親に近いのではないかと思ったことからでした。しかし「里親という認識が全くありませんでした」から、「自分達が該当」するとは思っていなかったそうです。
それゆえに、制度を知り、児童相談所に連絡するまでには数年かかってしまったようでした。
里親制度としては、養育里親、専門里親、養子縁組希望里親、親族里親の4つの類型があります。
Aさんは養育里親(東京都では養育家庭)を経験されている方のブログ等を読んで、「里親さんは自ら進んで里親になっている印象がありましたが、私たちは望んで子どもを引き取った訳ではありません」から、子育てをしている上での意識、子どもと関る上での立ち位置がとても違っていると感じたそうです。
通常の養育里親は「能動的里親」であって、親族里親は「受動的里親」といってもいいのかもしれません。
Aさんは「当時、児童養護施設による虐待がニュース報道されていたり、児童相談所についてあまり良い印象を持っていなかった」ことも、問い合わせに時間を要した理由として挙げていました。相談することによって、行政の監視下に入り、子どもを強制的に分離させられる可能性等も懸念したといいます。
しかし、それでも問い合わせをしようと思ったのは「自らの養育スキルに限界を感じたから」だといいます。
「児童扶養手当の窓口は、子育て相談をするところではないですよね。多くの受給者は、~お母さんなんだから、子どものためにもしっかりしなくちゃ~と励まされるのかもしれません。しかし、私はお母さんでもなければ、子ども達の親権もありません。窓口の担当者も、私たちのような立ち位置の家庭に対する言葉を用意していないように感じました。」
「小さい頃から知っていたとはいえ、やはり実子として育てていた訳ではないし、その年代に必要なことが判りませんでした。それよりも、娘より大きな2人の子どもは定型発達児とは何か違っているのではないか、という実感がありましたし、子どもの関り方を教えて欲しかった部分もありました。」Aさんは親族里親になれば「中途養育」に関する情報が得られるかもしれないと思ったのだそうです。
しかし、児童相談所の返答は「子どもと同居してしまうと親族里親には該当しない」というものでした。
林・兼井の調査(2003) によれば「東京都では、児童扶養手当を受け、すでに養育をしている親族を親族里親に切り替えない方針をとって」いるといいます。
「ようするに、児童相談所を通じて一時保護されなくては、サービスは受けられないということですね、と電話口で担当者に聞きました。既に同居してしまうと親族里親に該当しないというのもおかしな話ですが、私は先ず、子育ての問題を相談したかったのに、それが出来ないのなら、児童相談所という名称自体が全く不適切であると感じました」とAさんはいいます。
子どもにとって一時保護はトラウマになるし、出来ればそのような思いをさせたくないから、自分が引き取った訳であるから、「里親認定とか、お金の支給云々ではなく、問題のある子に対するかかわり方を教えてほしいと言っている」とAさんは児童相談所の担当者に伝えたそうです。
しかし、その時、「行政には該当するサービスはない」という返事が返ってきただけだったといいます。
ちなみに、毎日新聞の記事によれば「東京都の親族里親認定はたったの一人」(2011年11月8日時点)です。
「そして、NPOであるアン基金プロジェクトという団体があるので、そちらで問い合わせてみてください」と言われたそうです。
いずれにしても、AさんやAさんの妻が児童相談所に連絡をとったのは、親族里親以外にも「養育に関わる困難」を感じていたからである点は、注目しておきたいところです。
その困難とはいったい、なんだったのでしょうか。
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