1)中途養育者の困難はどのようなことから起こるか

03.「実子でない子育て」アンケート

8つの項目(複数回答可)チェックの割合は全体としては以下のとおり。

・    「行動や発達など、子ども自身の特性にかかわる問題」73%
・    「以前の養育や家族・血の繋がりなどに関すること」67%
・    「心理的サポートの不足」66%
・    「住居や日常生活などの問題」57%
・    「子育てにおける知識・経験に関すること」47%
・    「社会との関係」39%
・    「経済的サポートの不足」34%
・    「その他」11%

中途養育の困難はどのようなことからおこるか
上記の項目の中で、子育ての困難において「行動や発達など子ども自身の特性にかかわる問題」が最も選択されるのは仮説でも述べたとおりの結果といえるでしょう。

子育てと直接関る項目はこの「子ども自身の特性」項目のみです。

他の項目は「子ども自身」に起因しません。

仮説の上で形態別に変化が出ない項目としていた「子ども自身項目」を基点として、それぞれの形態が抱える困難度を修正する必要があるかもしれません。

「子ども自身」項目よりも他の項目が選ばれる場合は、結果に対するなんらかの考察が必要だと考えられます。
では、先ず統制群となる「中途養育未経験者」の方から見ていきます。

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未経験者群

未経験者

未経験者のデータは、「中途養育者は一般的にどのように思われているか」という点において非常に重要です。

これは統計処理的には統制群となりますが、この場合、当事者以外の人による「社会的認知」という意味合いを持ちます。

「実子でない子を育てたとしたら、何が大変なんだろうか」「どんな事に困難を感じるのか」を、社会的に評価してもらっている訳です。

 

先ず、未経験者がチェックした中途養育の困難として得点が高かったのは「血の繋がり(75%)」でした。

一般的に、血が繋がっていないことが最も困難ではないか、と考えられている、ということだと思います。

続いて「子ども自身の問題(63%)」、「心理的サポートの不足(58%)」「住居や日常生活(50%)」「経済的サポートの不足(42%)」「社会との関係(29%)」の順でした。

未経験者は「子ども自身」の困難よりも「血の繋がり」が困難度が高いと考えている人が多いようです。
これは養育経験のあるなしに関らず、「血の繋がらない子育て」に関わる困難が予想できる、もしくは社会的な認識ということでしょうか。

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ステップファミリー群

図3 中途養育者の困難はどのようなことから起こると思うか ステップファミリー^群
ステップファミリー群はどうでしょうか。

血の繋がり項目は、未経験者と同得点です。

未経験者の見立てはある意味、ステップファミリーと同じといってもいいのかもしれません。

しかしよく見ると「経済的サポート」以外の全ての項目が未経験者の得点を上回っています。

最も高い得点は「住居や日常生活(79%)」です。

続いて「子ども自身の問題(75%)」「血の繋がり75%」、「心理的サポートの不足(71%)」、「知識・経験(58%)」となっています。
「社会との関係(38%)」と「経済的サポート(17%)」項目は案外得点が低くなりました。

「住居や日常生活」の項目が高いのに、「経済的サポート」に対するニーズが低いということから、考えられることはなんでしょうか。
(後でも触れますが)金銭的支援のある(里親を含む)職業的養育群よりも経済的サポートのニーズが低いということは不自然であるように思えます。

他の困難項目がより高いため、経済的ニーズが埋もれる結果となっている可能性も考えられるでしょう。

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施設職員等 職業的養育群

図3 中途養育者の困難はどのようなことから起こると思うか 職業的養育群
施設職員等による職業的養育群では、「行動や発達など、子ども自身の特性に関わる問題(89%)」と9割近い人がチェックしています。

これはある意味、驚きの結果といえるのではないでしょうか。

厚生労働省のホームページには、「子どもの最善の利益のために」と「社会全体で子どもを育む」を理念として社会的養護が行われているとしています。
しかし、その現場である施設等の職員の9割が養育において「子ども自身に困難を感じている」のであれば、これは大きな問題ではないかと思います。社会的に、早急な対応が必要ではないでしょうか。
あるいは、他の困難項目が比較的少ないがために、子ども自身の問題に焦点化しているのかもしれません。
いずれにしても、ステップファミリーの元で育った子どもの養育の場が、施設に変わるなどということも想定されうる訳ですから、養育形態毎に変わる困難の感じ方は、理解しておく必要があるでしょう。

「心理的サポートの不足(69%)」も高くなりました。
「子育てにおける知識・経験に関すること(39%)はステップファミリー群とほぼ同じですが(著者の質問項目の作り方が悪いため)困難が「知識不足」から来るのか、「経験不足」から来るのかが判りません。

以下、「血の繋がり(50%)」、「日常生活(39%)」、「社会との関係(33%)」と続きます。
単純に数値だけを見ると「経済的サポートの不足(28%)」を感じる人はステップファミリーよりも多いという結果となっています。職業的養育者は、「職業として養育している」訳であるから、「経済的サポートの存在していない」ステップファミリー群よりもサポートの不足を感じているということに、著者はある種の違和感を感じます。年収項目など、生活費の項目をアンケートに盛り込んでいないため、具体的な比較は出来ませんが、一つの仮説として、職業的養育者の生活費は、養育費を含むのかどうか、という問題があるかもしれません。
家庭的養育者の場合、養育費は生活費の中から捻出するのが、ある種の暗黙の了解ごとではないでしょうか。
職業的養育においては自らの家庭における生活費と、施設等における子どもの養育費が別枠となっていることから、養育されている子ども達は経済的に不利益を被っているのだとしたら、なんらかの形で仕組みを変える必要があるのではないでしょうか。

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里親養育群

図3 中途養育者の困難はどのようなことから起こると思うか 里親群
ではもう一つの社会的養護の枠組みである、里親による養育群ではどうでしょうか。
(里親群においては回答が7人と少ないため統計結果として説明することは難いようにも思いますが、一つの傾向を探るために比較してみたいと思います)

里親群の特徴を一言で表せば、一人あたりの困難として選択する項目がステップファミリー同様に多いということでしょうか。
施設職員等の職業的養育群が「子ども自身」に困難を見出しているのに対して、里親群において一番高いのは「心理的サポートの不足(86%)」となりました。これは一人を除いて全員が挙げています。

以降、「行動や発達など子ども自身に関る問題(71%)」と「血の繋がり(71%)」、「子育てにおける知識・経験(71%)」と「社会との関係(71%)」、「住居と日常生活(43%)と続いています。
「経済的サポートの不足(29%)など職業的養育群と似た傾向を持つようにも感じられます。先の施設等、職業的養育における「自らの家庭における生活費と、養育費の別個の取扱」は、里親に関しては当てはまらないと思われますが、この経済的サポートの不足における数値の類似性が表すものは、なんでしょうか。

通常、里親認定には基準が存在していて、その中に「経済的に困窮していないこと」という項目が存在します。ステップファミリーになる上では、そのような認定基準は存在していませんし、社会的な経済サポートが何も存在しないのですから、経済的に苦しい世帯は、ステップファミリーにより存在していると考えるのが自然だと思われるので、このあたりを今後も、調査する必要があるかもしれません。

「血の繋がり」及び「社会との関係」に関するストレス度合いはステップファミリー群よりも高くなっています。
これは里親という立ち位置が、日本社会において「特殊な」領域であることを指し示しているようにも思えます。(この後に出くる、真実告知とも関連しているように思います)

また「知識・経験に関すること」が他の形態よりも高いことが特徴的であるように思われるのですが、里親研修などは地域的にも行われていると思いますが、この点に関しても、何故そう思われるのかを、考える必要があるでしょう。

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親族養育群

図3 中途養育者の困難はどのようなことから起こると思うか 親族群
親族においては回答数4名と里親よりさらに少なく、これも統計処理をするのは難しいと思われます。

しかし、「経済的サポートの不足(75%)」「社会との関係(75%)」が高いポイントとなっているなど、ステップファミリー群、職業的養育群、里親群とも少し違った傾向を示唆しているようにも感じられます。

「子育てにおける知識・経験(25%)」以外は全て50%(2人)であり、傾向の有無は不明といえるでしょう。

元々、親族は「血の繋がり」あるいは、家系的な繋がりから養育を肩代わりしている訳ですから、 親族において「血の繋がり」に困難を示す人が少ないというデータは、ある意味当然の結果かもしれません。

他の養育形態で高い数値となっている「子ども自身に関る問題」等も低くなっているのも、血の繋がり等のストレスが低いことにも起因するかもしれません。(勿論、今回のデータから確定できるものではありませんが)

では、親族による養育が良い、と簡単に判断してよいのでしょうか。

おそらく、そうとは言い切れない側面が「経済的」「社会的」困難の得点に現れているのではないでしょうか。

また、今回の調査では「血の繋がり」や「子ども自身」項目が、他の養育形態に比べて低く出ていますが、果たして本当にそうなのか、親族による養育において、それらはストレス項目にならないのか、このあたりは著者の個人的な経験(自身地の津からして血の繋がりがない親族を養育した場合)からしても、実際の困難度合を表していないようにも思えます。

しかし、親族が公の場に出てこないことも、著者は経験上、知っています。

親族養育は、社会的に「当たり前のこと」として認識されている、ゆえに支援がないのも「当たり前」となっている、この経済的・社会的側面は「無理解の両輪」と言えそうです。

しかし、よくよく考えてみれば、血の繋がらない子育ては「当たり前」ではないし、子育てに支援がないのも「当たり前」ではありません。

この「無理解の両輪」は、矛盾するメッセージとしてのダブル・バインドとなっていないでしょうか。

いずれにせよ、以前に児童扶養手当の頁でも触れましたが、親族養育は決して少なくはないと思いますが、その実態は不明なところが多々あります。おそらく、親族は多くのシングルマザーやシングルファーザーの養育を補っていますが、自身が養育者という自覚がないのかもしれません。

それは困難として抽出されない部分にも繋がるかもしれませんが、困難としての抽出を「してはいけない」暗黙のタブー視につながっているのかもしれません。

このあたりは以前にも紹介しましたが、古口による研究などのように、今後も事例毎に丁寧に研究していく必要があるでしょう。

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