子どもを育てているのは、実親だけではありません。しかし日本では、制度のすき間に取り残された“もうひとつの養育”が存在します。

「里親は支援されるのに、継親は支援されない」──なぜ?

子どもを育てるのは、実親だけとは限りません。再婚により継親が養育を担う場合、祖父母や親族が子どもを引き取る場合、知人が一時的に預かる場合など、日本でも「実親以外が子どもを育てる形」は確実に存在しています。それにもかかわらず、日本の制度や支援体系は「養育する立場の違い」によって大きな支援格差が生まれています。

たとえば、里親には研修・手当・相談支援などが制度として用意されていますが、継親にはほとんど存在していません。どちらも「途中から子どもを育てる」という点では共通しているにもかかわらず、支援のあり方に明確な差があるのが日本の現状です。

こうした状況は、「家族の形が変化した時に生まれる責任と負担」が可視化されていないことから生じています。


実親以外が育てることを、世界では「オルタナティブ・ケア」と呼びます

国際的には、実親による養育が難しくなった場合に行われる「親以外による養育」をまとめて オルタナティブ・ケア(Alternative Care) と呼んでいます。
ここには、里親や親族による養育だけでなく、継親(ステップペアレント)が育てる形も含まれます。

イギリス・オーストラリア・アメリカの複数の地域では、継親は「血縁ではないが、子どもと生活を共にする養育者」として制度的にも認められ、支援対象に含まれる仕組みがあります。つまり、国際的には「血のつながり」よりも「養育を担っているかどうか」に重点が置かれています。


日本では、継親は「支援対象」ではなく「家族だから当然」とされがちです

同じく途中から親になる立場であっても、日本では里親は「制度の中に位置づけられた存在」、継親は「家族の一員なので支援対象外」という扱いになってしまうことが多くあります。

しかし実際には、継親の立場には次のような特徴があります。

  • 子どもとの関係づくりを「ゼロから」始める

  • 法的に親権がない場合もあり、決定権に制約が出る

  • 社会的には「本当の親ではない」と扱われやすい

  • 親支援講座や相談機会がほとんどない

にもかかわらず、「家族なのだから当たり前にできるはず」と見なされ、支援の入口が制度的に用意されていないという矛盾が存在します。


「中途養育者」ということばで、見えていなかった課題を言語化できます

そこで、有効な考え方として提案されているのが 「中途養育者」 という視点です。

中途養育者とは、出生時点では養育者ではなかったが、ある時点から子どもを育てる立場になった人のことを指します。

この中には、次のような人たちが含まれます。

  • 継親(ステップペアレント)

  • 親族養育者(祖父母・きょうだいなど)

  • 里親(公的に委託された養育者)

  • 未成年後見人

  • 友人・知人などによるインフォーマルな養育者

つまり「制度で定められた養育者」かどうかではなく、「途中から子どもを育てることになった」という実態を基準に支援を考えるという発想です。

この視点をとることで、「支援がある人」と「支援がない人」に線を引いていた“制度の壁”を乗り越えることができます。


オルタナティブ・ケアラー(国際概念)と中途養育者(日本の実態)をつなぐ

国際的な枠組みである 「オルタナティブ・ケアラー」(親以外の養育者)を上位に置き、その中の「家庭ベースで子どもを育てる人たち」を 「中途養育者」 として整理することで、日本でも制度のすき間に取り残されてきた養育者を明確に位置づけることができます。

 
【オルタナティブ・ケアラー】←国際概念  └ 里親  └ 親族養育者  └ 継親  └ 未成年後見人  └ インフォーマル養育者    ↓ 【中途養育者(日本概念)】  =家庭で子どもを育てる“途中からの養育者”

この考え方は、「誰が法律上の親か」ではなく
「誰がいま子どもを育てているのか」を軸に支援を組み立てることにつながります。


子どもを守るためには、養育者を守る仕組みが必要です

養育者が孤立すれば、子どももまた孤立します。
制度の外側で子どもを育てている人たちを見えないままにしておいては、
子どもの安心も、社会の安全も守ることはできません。

継親を含む「中途養育者」に目を向けることは、
家族のかたちが変化している現代において避けて通れない課題です。


最後に

子どもを育てているのは「実親だけではない」という事実に、
社会がもう一度目を向ける必要があります。

「途中から親になる人」にも、支援が届く社会へ。
その第一歩は、言葉にすることから始まります。